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JP産業展協会・「Before JP2022」パネルディスカッションでDXの重要性を意見交換

Before JP2022・パネルディスカッション

 

パネラー
作道  孝行氏(作道印刷株式会社代表取締役・JP産業展協会会長)
岡 達也氏(あさひ高速印刷株式会社代表取締役・JP産業展協会運営委員)
コーディネーター
宮本 泰夫氏(株式会社バリューマシーンインターナショナル取締役副社長・JP産業展協会運営委員)

 

DXはデジタル機器やシステムの導入で終わりではなく、業務や仕事のプロセスを含む変革が必要

 

「印刷業界にとってのDXとは?」をテーマに意見を交換

 

JP産業展協会(作道孝行会長)は昨年11月15日、「Before  JP2022~Cheer up!印刷業界~では、「印刷業界にとってのDXとは?」をテーマにパネルディスカッションを開催し、作道孝行氏(作道印刷株式会社代表取締役)と岡達也氏(あさひ高速印刷株式会社代表取締役)をパネラーに招き、宮本泰夫氏のコーディネートで意見を交換した。
経済産業省から出されているDXの定義では「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされている。
この定義を紐解くと、DXは全社的に進めるべきもので、かつデジタル機器やシステム導入を行って終わりでなく、業務そのものや仕事のプロセスを含む根本的な変革が必要となることが考えられる。そこで本紙では「印刷業界にとってのDXとは?」をテーマに意見交換されたパネルディスカッションの内容を紹介する。

 

曲がり角に差し掛かった変化への対応策とは

 

宮本 まず始めに「印刷DX」という内容で話を進めていきます。「印刷業界にとってのDXとは?」という非常に大きなタイトルがついていますが、まずは印刷業界の動向について、印刷会社の経営者としての視点からどのようなことが変わり、何を変える必要があるのかについてお伺いします。
作道 あまりにも大きなテーマで話しづらいところもありますが、皆さんもすでに実感されおられるように、印刷業界では急激に紙媒体の仕事が減り、需給バランスが取れていないことが課題となっています。
仕事を取るために価格を下げ、利益を圧迫しながら何とか食いつないでいるのが現状ですが、これからは自分たちでどのようにして仕事を創造していくのか。そのためにはマーケティングを極めていくことが重要になってくると思います。
宮本 仕事量は確実に減っています。
作道 紙媒体に限定すれば間違いなく減っていますが、デジタルメディアを含めれば多少は減り方も緩和される部分があり、ソリューションサービスまで踏み込めばまだまだ仕事はあると思いますが、そこまでわれわれが踏み込めず、紙にインクを載せることしかできていません。これまで受注産業の傾向が強かったため、お客様から言われないと動けないという体質がしみついており、自分たちから提案することが苦手な業界だったのではないかと思います。
岡 当社は軽印刷からスタートした印刷会社であり、頁物を得意としてきました。頁物の場合、頁数が減ることはまだ良い方なのですが、部数が減り、そのうちPDF納品で良くなってきました。そういった話はいとまがなく、PDFを作る制作の仕事はなくなっていませんが、そのファイルを量産する、紙に転写することに関しては、未来は明るいか暗いかと言えば暗いとしか言えない感じです。
何に置き換わっているかというとWebや動画です。最近では動画へのハードルが低くなり、お客様は動画で伝えることを考えるようになりました。
宮本 Webや動画の制作をお客様が考えるようになってきたということですが、印刷会社はその部分を考えないのですか。
岡 当然やらなければいけないことなので、お客様に対して「ここまでならできます」とは伝えていますが、まだまだ不十分な状況にあります。お客様から求められているのは確かであり、われわれの本業ではない動画制作やWeb制作のサービスに関しては、得意ではありませんが、需要は伸びています。
宮本 そこから紙媒体へということもあるのでしょうか。
岡 もちろんそういう形態を考えています。かつてはチラシにQRコードが付いていたと思いますが、最近のムック本はカラーページの横にQRコードがあり、スマホをかざすと動画が出てきたり、Webサイトに飛んだり、紙を入口としたサービスが広がり始めています。そうした動向をもっと勉強してお客様に提案しなければならないと思います。
宮本 お客様への提案ということで作道社長はいかがですか。
作道 今までより大きな事業ドメインで提案を考えなければならないと思います。例えば紙のメディアで引きつけてWebに飛ばして購買へつなげるような提案などが増えているような気がします。連携しながら紙媒体の効果をどのように出していくのか。最終的にはお客様の商品が売れることにつながらなければいけません。紙だけに固執していると狭い提案しかできなくなり、お客様に飽きられて異業種に仕事を持って行かれてしまいます。特に商業印刷ではそういった流れになってきています。
業界の垣根が低くなり、印刷業界がそこへ踏み出さなければ、異業種から入ってくることになります。印刷会社がその下について紙のメディアだけを受注していたのでは価格競争しか残りません。そういったところに追いやられるのではないかと危惧しています。

 

マーケティングに深く絡める体制づくりを

 

宮本 では、何をどのように勉強していけば良いのでしょうか。
岡 当社が考えているのはお客様のことを勉強するということです。印刷をしているのならひとつ上のプロセスであるDTP、DTPができているのなら顧客とつながり、何を意図しているかを知るしかありません。
それを知ってから、今できるところで何に触手を伸ばすのか、もしくはつなげていくのか。自社だけではなく、関連するサービスを提供されている外注先や協力会社を探すことです。インターネットのおかげでそこのハードルは低くなったと思います。
宮本 お客様は何を求めているかということですね。
作道 お客様のマーケティングにどれだけ深く絡んでいけるかが重要になってきます。マーケティングもいろんな捉え方があると思います。広い意味でマーケティングを考えれば、印刷会社にできることはたくさんあるとは思いますが、そこをやり出すとリスクも発生し、無駄も増えることが分かるため、知ろうとしていないのではないかと思います。
一方で、少しでも高く売れるようにしていかなければいけないのですが、高く売ることが苦手な業界の体質も大きな課題となっています。
データを受けで紙の印刷物の仕事を取ってくることは、リスクは最小限に抑えられますが、利益を増やすためにはたくさん仕事を取って薄利多売でやっていくしかありません。あるいは新しい需要を創造していくのかの二極化していくでしょうね。
宮本 印刷業はソリューションプロバイダーとなり、お客様の課題解決型企業にならなければいけないと言われていますが。
岡 いつもそういった議論にはなりますが、どの大きさで話をするのかです。営業マンをなくすことを目的にしてDXで会社を変えていく。例えば出勤しなくてもつながっている。どういったテーマを設定するかによって会社の数だけやり方があると思います。
最近では多くの印刷会社がデジタル印刷機を保有しています。例えば1日8時間は人間がオンデジタル印刷機を回しますが、プラス3時間は無人で回す。決まった仕事は紙を入れておけば自動で動き出して無人で印刷できるようにする。今は機械も安価になっているのでテストとしては面白くなってきたという感じはします。
宮本 環境が変わりつつあるということですね。
岡 私が知っている印刷会社では、オンデマンド印刷機を無人で管理する時にウェブカメラを載せて紙がなくなるとセンサーが光り、それをデザイナーが確認して紙を入れる。隣の部屋に行かなくても用紙がなくなったことが分かる体制にされました。以前のようにウェブカメラが何十万円もするのであればやめようとなりますが、ハードルが下がって実験しやすい環境になってきました。
宮本 欧米のケーススタディやものづくり、印刷会社の経営や営業戦略として、新しいものを積極的に採り入れて一歩を踏み出すという考え方があります。もちろんそこにはリスクが伴います。以前は辛かったかもしれませんが、そういったことに意欲的である欧米の会社と保守的な日本の印刷会社では大きな違いがあります。
作道 日本の特性として「ローリスク・ローリターン」という流れがありました。今まではそれで事業が継続できていたため、あえてリスクを冒して新しい商売をするより、今のままの方が良いという考えでしたが、このままの流れではいけないという時代になってきました。
岡 根底に流れているのは、「リスクを背負いたくないからお客様の言う通りにしていれば何とかなる」という思いがあると思います。

 

生産工程の自動化を目指して本格的に始動へ

 

宮本 DXというと生産工程の自動化の話になるかと思います。これから労働人口が減少していきますが、すでに印刷会社はその課題に直面しているのでしょうか。
作道 当社では逆に従業員が増えています。仕事を取りに行かなければいけないので、営業を増やしている状況です。
宮本 ものづくりをすることと仕事を生み出していくこと。率的には後者を強化していくという感じで仕事を増やしていくという流れですか。
作道 当社としてはそうなります。
岡 製本工程など、一部のプロセスでは人が必要となる部分もありますが、当社の場合はA3の軽オフと呼ばれるモノクロの両面機を使っていましたが、デジタル印刷機でもモノクロ印刷ができると考えて試してみたところ1人で2台のデジタル印刷機を回せるようになり、人件費はかなり減りました。現在では6台のデジタル印刷機を3人で回しています。
宮本 私が見て来た北米のデジタル印刷の現場は、デジタル印刷機が7台稼働していましたが、オペレーターは1人でした。センタリング方式が採用され、1号機から7号機まで紙も含めて必要なところに情報が投げられ、仕上がったものを回収するまで1人でやっていました。
日本の場合は1台に1人のオペレーターがついていますが、7台のデジタル印刷機を1人で動かせれば人件費は7分の1になります。この話は今から15年ほど前のことです。
当時はコスト競争力を高めることが狙いでしたが、現在ではオペレーターの確保ができない、ロットが小さいものをいかに効率的に作るのかを考えた時に人のやりくりをどのようにして、どういったフローで現場を作っていくかが重要になるのではないかと思います。
岡 8月に開催された「JP2021・印刷DX展」で、あるメーカーが展示していた内容がそういったものであり、PODのオペレーターは0人の会社が映像で流れていました。頁物の印刷会社はそちらの方向に向かわなければなりませんが、そうではないものもたくさんあります。
価値のあるプロセスで、印刷を無人でやる会社が出てきた以上は、たくさんお代をいただくことは難しいところに来ています。その分は前工程でお代をいただかなければいけませんし、後加工でも違いを作っていかなければなりません。さらには、どのようにお客様に商品をお届けしていくかも考えていくことが必要な時代になってきました。
そういったところでスピード感なのか、つながっている感なのか。例えば何千種類のものをわずか1日で仕分けして送る。物流の部分で差別化を図っていくことが求められていると思います。
宮本 作道社長はいかがですか。印刷の前側と後側のどこに付加価値を持ってやっていくかということでは。
作道 仕事の大きさでは前側で取っていく方が付加価値は大きいと思います。
パッケージ印刷の場合はいろんな要素があり、すべてを自動化することは難しい部分もあります。しかし、仕様の標準化などでお客様に我慢してもらわなければいけない部分を訴求できるかどうかがポイントになってきます。
宮本 合意のうえで双方にとってメリットがあることは何かをお客様と話せるようにならないといけないと思います。印刷会社のコンサルティングをしていると印刷物を発注しているクライアントと話をするケースもあります。
印刷会社は業者であって、価格は下げるし、納期が短くても大丈夫といった見方が多いです。それが発注者側から見た印刷会社のスタンスですが、その点はどうしていけば良いと思われますか。
作道 お客様との関係性次第だと思います。どこが評価されてお金をもらえているのか、自分自身で分かっていない会社が多いと思います。一言で印刷会社といっても、いろんな印刷会社があって、「どういった印刷会社ですか」と聞かれた時に、自社の強みが答えられない印刷会社が多いと思います。
そのため、価格競争になると値段を下げるしかありません。差別化できるところが価格だけになってしまっていると思います。「ここが競合他社よりも優れている」と説明して納得してもらえれば、少々高くても通ると思います。そのように持っていけるかどうかは、自社の強みを認識しているかどうかにかかってきます。
宮本 何にお金を払っているのかよく議論になります。印刷物を買っているのであれば、「A4フルカラーで両面のチラシは1枚いくらだから5千枚でいくらです」という商品としての価格。それ以上にお客様は何に向けてお金を払っているのか。何を目的にそこに発注しているのか。そこを説明できるようになってほしいと個人的には思います。
岡 基調講演された松口社長が以前、「冷蔵庫に買い物ができるボタンが付く時代が来ることに脅威を感じている」と言われました。大阪シーリング印刷さんのような会社であっても、そういった意識でいることを知り、私はその話を聞いて背筋が震える思いがしました。
われわれ零細業者でもデジタル印刷機を使っている限りはボタンを押せばプリントアウトできるわけです。ボタンのポイントを逆に持っていくことは難しくはないと思います。要はインターネットでクリックしてもらえれば無人で機械が動き出して早く納品できる。オフセット印刷機ではできなかったことができるようになり、その部分をどのように組み合わせていくかが考えどころだと思います。

 

業務スタイルやワークフローの見直しを

 

宮本 ここからは、DXの話を深堀していきたいと思います。もともとの考え方はデジタルデータを上手に料理して全体に反映させていく。印刷物を作ることにつなげ、作った印刷物が効果を生むことにつながげる。
顧客の購買行動が変わるといた社会的な変化を含めてDXと呼ぶことが多いですが、「印刷会社にとってのDX」はどのように考えていけば良いのでしょうか。
作道 経済産業省の定義では、データが連携して自動的に製品が出来上がっていくなど、「今までにない発想で自社の優位性を確立すること」と定義とされていますが、一足飛びにはできないため、いろんなフェーズがあると思います。
まずは自社の生産性を上げていくところからスタートするしかないと思います。業務をどのように標準化して合理化を図っていくのか、業務のスタイルやフローを見直さなければなりません。
過去の考え方でデジタルに置き換えただけではあまり意味がないことになります。そこが対応できて利益を出せるようになれば、今度はそのデータを自社だけではなく、もっと広い範囲で捉えていくことを考えていけば良いと思います。
例えば外注先とどのように連携するのかです。データでつながっていれば、いちいち電話で頼まなくても自動的に仕事が入り、商品が出来上がってくるという状況を作るだけでもコストダウンにつながります。
そういった意味での合理化が進み、さらに進化していくと今度はお客様とデータ連携する。お客様のデータが自動的に入り、AIが判断して製品が出来上がっていく。
この3つくらいのフェーズがあって、それを順番にやっていく。それができて本当の意味でのDXではないかと思います。
新しいビジネスも考えていかなければならないと思いますが、利益が上がっていなければ考える余裕がないので、まずは利益体質を強化することが必須条件になってくると思います。余裕ができればそれ以外のことにもトライしていけば良いとは思います。
宮本 生産性を高めるためのデータ連携なのか、データの利用という感じでしょうか。
岡 まずは生産性向上だと思います。自社で設備を持っていればいるほど、それは簡単になると思います。そうではなければ、作道さんが言われたように外注先と連携していくことです。
今まで人手を要していたところを実験的に無人化・自動化・半自動化・夜に回すなど、これまで使っていなかった時間を活用することでコストを下げていく。
仕事があるからこそ生産性向上ができるわけです。その分、余った自社の資源を他社とは違う方向に持っていく。そこは各社が考えることです。
例えば私たちの業界であれば、製本などの後加工の工程も絡むのでデジタル印刷機と製本をつなぐという概念が必要になります。そこを完全につないで物流までも同じメーカーでつないでいく。そこまでは誰でもできるようになってくると思います。
宮本 印刷通販会社の工場では、完全無人化ではありませんが、あちこちから入ってくる仕事に対して、何をどの順番に割り振れば効率良く、コストを下げることができるのかを自動計算し、ほぼ自動で出力されて後工程に回っていく体制を整え、生産性の効率につなげています。
以前に作道社長から二極化のお話を聞いた記憶があります。印刷会社が向かっていく方向は大きく2つあり、ひとつは徹底的に効率化を図って生産設備を持ったものづくりの会社になるのか、ファブレスになって仕事を作っていくことにシフトするか。そういった動きはどうですか。
作道 これからはファブレスとファウンドリーに分かれていくと思います。中途半端に設備を持っている会社は機械も回らず、固定費はかかるので、どうすれ良いのかとなれば、機械を出すしかないため、自ずとファブレスの方向に向かっていくと思います。
そこでDXが役に立つのはファウンドリーとタッグを組んでいく時です。常に取ってきた仕事ができるという状況をどのように作っていくのかという流れになるような気がします。

 

目的に応じたスムーズな提供体制が必要に

 

宮本 いろんな役割というか、プレイヤーが出てくるのでしょうが、お客様がいて営業系を主体とした会社があって、ものづくりを主体とする会社がある。結局はデータ連携をして自動化というか、データが入ればそれを作る。データドリブンの中で次のものが動き始める。それを効率的に組んでいくが、これから先の姿でしょうか。
作道 一方では手間がかかる仕事は残ると思います。それはそれでやっていけば良くて、そちらに人を集めるということになるような気がします。DXが進んでいくと営業レスで仕事が回っていくはずです。データがお客様とつながっているからデータをもらいに行く必要もなくなります。
宮本 主要な印刷通販会社はそうなっています。発注者がデータを投げれば後は自動でものづくりがスタートします。
作道 そこはまだ改善の余地があって、ホワイトカラーの合理化は進んでいないとは思います。
岡 その通りだと思います。営業に求められている仕事は情報をもらいに行くことであり、原稿をもらって来て納品することではありません。お客様とどのようにつながっていけばお客様のビジネスが最高に効率化されるのか、目的に応じた印刷物がいかにスムーズに提供できるかに関してルールを作り、流れを作る。品質をどこで担保するのかを考える。
お客様と話をして、自社も利益を得ながら、その流れを作ることが求められます。今は入稿システムやリモート校正システムなども山ほどあります。
宮本 作道社長が言われたように、業務をいかに標準化できるのか。デジタル化とはそういうことだと思います。私がお手伝いしている印刷会社の社長が言われるのは、「うちは一品一葉です。
すべての仕事が顧客と一対一でやり取りをして条件を決め、お客様が何をしてほしいかを聞いて、それをそのままやるのが仕事です」と。
これを追いかけているうちは効率化されません。全部とは言いませんが、例えば色にしても紙にしても、どこかを標準化して、そこで合理性を図っていくことが必要ではないかと思います。
岡 その通りだと思います。
宮本 では、印刷会社としてどうしていけば良いのでしょうか。
岡 お客様の比率で、もっとカスタマイズして営業が御用聞きに徹して、「おたくしかできない」と言ってもらえるものを作るのか二分化していくと思いますので、自社にとって一番ハッピーな比率はどちらなのか。
他の業界で零細な製造業を買収した社長のブログを読んでいると、「いろいろ問題はあるがIT化ができた。来年、目指すべきは商品が出来上がったらAmazonの倉庫に送って、フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)という仕組みでAmazonが代わりに商品を売ってくれる。お客様がクリックしたら勝手に売れてAmazonに在庫がなくなると作って送るだけ。これだけで今まで営業がやっていたことがチャリンチャリンになり、小さくDXができた」と書いてあるのを見ました。
これは完全に標準化です。標準化と商品化ができているためにAmazonで品番を付けて売ることができます。営業が必要なくても販売ルートが完成しているのは恐ろしいことだと思いました。

 

「見える化」で社内の意識改革が重要

 

宮本 プラットフォーマーの下に入るのもひとつの形です。コンシューマーに物流を含めて販売してくれるわけです。標準化があって生産の合理化、まず手をつけるとしたら何からですか。
現状を「見える化」するのは大事なことです。「見える化」の後ろにボトルネックという言葉が引っ付いていますが、どこがボトルネックなのかが分からなければ合理化はできません。そのためには「見える化」が必要になります。
作道 重要なことは社員の意識改革だと思います。何かエビデンスがないと状況説明ができないので「見える化」をして、それをツールとして説明していく。そうすれば、ダメなものはダメだと分かります。
それを見た本人が気づいて変われるかどうかだと思います。そこを引き出すような「見える化」をしていけば、社員が考えながらいろいろやってくれると思います。業績悪化した時に情報開示を許さない経営者であれば交代した方が良いと思います。
宮本 残念ながら、12カ月経って初めて今年は赤字かと気づく経営者もいます。月次のPL(損益計算書)が出ていない印刷会社もあります。小規模になると、お金を払ったら今年は何も残っていないと初めて分かるという会社も少なくありません。資産が見えていなければ、現場での動きも数値化されません。まずはそこに取り組まなければ次には進めなくなります
岡 それに関しては、私がそういう社長であったとして、例えば年齢が65歳だったとします。苦労して「見える化」をした時には70歳になっていると思ったらやりません。しかし、35歳であればやった方が良いと思うでしょうから年齢も関係するような気がします。かつてはMISのシステムはすごく高価でしたが、最近では安価で使えるものも出てきており、ハードルが下がったと思います。
宮本 以前よりも導入しやすくなってきたのは事実です。
作道 どこからスタートするのかは各社各様だと思います。例えば作業時間を記録するだけでも作業時間が短くなっていきます。日報に適当に時間を書くのではなく、きっちり記録することは重要です。
同じジョブを前回と比較して今回はどれだけの時間で作業ができたのかを比較するだけでも「縮めよう」という意識が従業員に出てきます。その意識を引き出すために数値化していかなければなりません。
誰も損をしようとは思っていませんが、自分の財布でなければ余計に使ってしまいます。その気持ちをどう引き出すか。それが「見える化」だと思います。
宮本 「見える化」は現場が抵抗する会社も少なくないようです。ある印刷会社は、過去はすごく忙しくてチラシでいうと1日8時間かけて10本くらい制作していましたが、最近では仕事が減って1日3本しかないのに8時間かけて制作しているようです。「見える化」をされると全部が表に出るわけです。どのように経営的にケアしていけば良いのでしょうか。
作道 悪い部分が明らかになったからと言って重箱の隅をつつくようなアプローチをしてしまうと隠すようになると思います。一緒に考え、今のままでは成り立たないことを理解してもらうことで問題解決に向かうものだと思います。
その人がひとつの会社だったとしたら、すぐに赤字になって潰れてしまうわけです。それで良いわけがないから何とかしようという話になります。
それが見えなくて会社全体でどんぶり勘定になってしまうと、会社全体が儲かっていたらそれで良いという発想になってしまうのではないかと思います。
宮本 DXは、デジタル化が入口ではありますが、どう実行していくのか、どこにゴールを見出せば良いのか。無人工場がDXのゴールだとは思いますが、すべての会社が手掛けられるわけではありません。特に日本の場合は、20人以下の印刷会社が大半で10人以下が9割を超えます。
印刷会社としての実行プロセスは、「見える化」からということもありますが、どこからスタートして、どういうステップを踏んで、どういうゴールを見ていけば良いのか。中小の印刷会社まで含めて考えた時にどのようなステップを踏めば良いと思われますか。
岡 頁物の業界では多品種化・小ロット化が進んでいます。これまで断裁・丁合で仕上げまでしてから納品していましたが、デジタル印刷機を導入すればその丁合のプロセスがなくなるわけです。ひとつのプロセスが吹っ飛んだことになります。
もちろん、私たちの業界はデジタル印刷機が普及していますが、いかに稼働させるかということで、例えばトレイの段数が多ければ多様な紙に対応でき、長時間無人で動かせるようになり、それを遠隔でコントロールできます。
無人化したり、夜間に動かしたり、半自動化するのが難しいのであれば、機械が止まったら信号で知らせる。止まれば見に行く。まずはそのプロセスから人の手を減らす。それができそうな感じはしますが、まだそこまではいっていません。

 

DXはひとつの手段、目的をハッキリと

 

宮本 「DX」という言葉が先に歩いているような気がします。すごく高尚なものと考えてしまいますが、そこにいくまでに何をするのか。オペレーターが帰ってもボタンを押して帰えれば朝には出来上がっている。途中で止まったら信号で知らせるから見に行けば良い。それもひとつのあり方です。いろんなケースが出てくると思います。
岡 私は2つあると思います。ひとつはプロセスを標準化することです。そうすればWebで仕事が受けられ、今お付き合いしているお客様と垂直に上っていけるようになります。
もうひとつは、お客様のプロセスに手を突っ込んでいく。お客様を便利にすることで違いを作っていくことが目的でデジタル化はそのための手段です。そうなれば評価が変わると思います。業態変革ではなくて業態を進化させる。それで良いのかと思っています。
作道 もう少し大きな話をすると、基本的にはお客様の潜在的なニーズをくみ取り、それに対して何ができるのか。どうなりたいかがなければ、何も始まらないような気がします。そういったストーリーが必要になってくるのではないかと思います。
経営者が経営理念や戦略をきちんと示していかないと社員は何をすれば良いか分からなくなります。経営者がきっちりと整理して社員に想いを伝えられれば、社員の意識も変わってくるはずです。
宮本 先に経営者が変わるということですね。そもそも論になりますが、「何が得意ですか」と尋ねると、「何でもできることが得意です」と10社あれば9社がそう答えます。印刷の発注者が聞いても同じ答えです。
だから、発注者からすれば価格の話になります。どこに頼んでも同じであれば安いところで良いと思います。それを言い始めると、DXはどこかに行ってしまいます。会社の姿勢が問われるようになってきました。
作道 違いが見えないから比べるのは価格しかないわけです。当然、安いところに発注するという流れになります。他社よりも1日早くできます、
こんなサービスが付いています。何か他社と違ったところがあれば成り立つ話だと思いますが、それを説明できない会社が多いと思います。
宮本 あとは手段と目的、デジタル印刷機は手段です。DXもひとつの手段というか道具です。それをどう使うか、何のために使うか、どういう目的で使うか。それが会社の強みにつながり、目的面で顧客とつながっていく。
営業面でもそうで、そこをきっちりとイメージできるようにする。ビジネスの規模の大小に関係なく、そういう形で入っていくべきだと思います。
作道 商売をする以上は差別化していくしかないと思います。どこで差別化するかというと、お客様はどこで困っているかに尽きると思います。お客様の課題が分からないことには何も始まりません。

 

部分最適からスモールスタートで全体最適へ

 

宮本 顕在化しているニーズは見えているので分かりますが、潜在的なニーズの掘り起は難しいことです。
作道 お客様とどのようにコミュニケーションを図っていくのかです。よくやる手法ですが、競合相手を褒めちぎります。褒めちぎると競合相手に対するお客様の隠れた不満が出てきます。そこに応えるような提案をしていけば良いと思います。
岡 これまで印刷業界はメーカーさんが、こうすれば生産性が上がる、このソフトを使ったらいろいろできるという流れでした。
インプットやアウトプットがイメージしやすいですが、DXで言われているのは、そういったものが集まり、取捨選択を経営者がして最後どういう形にX、トランスフォーメーションしていけば良いのかを示されていないから困っているわけです。答えはそれぞれになるのでしょうが、やった人とやっていない人とではかなり差がついていくと思われます。
ビジネス系の広告を見るとノーコードやローコード、自分たちはこういうことができます。クラウドに上げるとテンプレートがあって、それを使うことで便利になります。そういったことが言われるので、できるところからやっていかなければならないと私は危機感を持っています。
宮本 「お願いします」と言われた時にある程度のベースの知識は持っておかなければ何も言えなくなります。
岡 国がFAXはやめようと言っています。われわれはそういった国に住んでいるわけですから遅過ぎることはないというか、早く取り組んだ方が良いと思います。
宮本 まずは「見える化」をして、標準化をしながらどこを合理化していくのか。生産現場としての効率化もデータを基軸に考えていく。その一方でお客様との連携、外部のパートナーとの連携、印刷から加工という流れもあるかもしれません。
そういったところとの連携もデータをベースにして、デジタル化というよりはデータを基軸とした合理性の高いものづくりにつなげていく。そうしたことをまずは、印刷のDXとしてやっていくということが重要であると思います。
作道 デジタルで標準化をして最大限活用するという流れは変わらないと思います。メーカー同士での情報共有がしづらいところがあって、例えばA社の機械はこの形式のデータしか受け取れません。そういったところを大同団結していただくというイメージで共通化してもらうことが業界のためになってくるのではないかと思います。
岡 デジタル印刷機のメーカーに限らず、JDFという名のもとにオープンイノベーションと言っていますが、現実はクローズになっています。
つながっていないと機械が回らなくなるのではなく、例えばこのメーカーの機械は何らかのツールでつながって回りますとなれば、便利だからこれで流そうとなります。
宮本 メーカー各社とうまく話をすれば、印刷会社主導でできそうな感じはあります。
岡 できる部分はあると思います。全体最適が最終目的ですが、部分最適だけでもやっていかなければなりません。

 

直面する課題を解決するための糸口を

 

宮本 最後に次回の「JP2022・印刷DX展」では、どうやってメーカーをつないで見せていけるのか。印刷工場でのDXのような形を展示会場の中で来場者に提示できるのか。それを考えていきたいと思いますが、何かアイデアはありますか。
作道 そこは永遠の課題だと思います。来場された方にとって有意義な展示会でなければいけません。どういう提案ができるか。そこが接点のスタートです。出展される企業には自社の商品を売ることばかりを目的化するのではなく、お客様の問題解決を目的にしてほしいと思います。
岡 個人的な要望ですが、せっかく「印刷DX展」と言っているのであれば、とにかくコネクトしてほしいです。今までは自社の中でコネクトしているだけで、競合相乗りは要らないと思いますが、実証実験の段階でもかまわないので、グーグルワークスペースからダイレクトに機械につないだり、キントーンからダイレクトにつないだり、月額1500円のサブスクリプションのソフトウェアとつないだり、マイクロソフト365とつなぐとこういうことができます。そうなると来場者の期待も高まります。
作道 小規模の会社はIT投資の負担が増えてしまいがちなので、流れ的にはインフラはクラウドで、アプリケーションもクラウドサービス的なアプリになっていくのではないかと思います。
岡 昨年8月に開催されたJP展であるメーカーがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を使って自動化を提案していました。ロボットといっても概念、ソフトウェアを使って自動で仕事を回すという提案をされたことは面白かったです。それも投資としては数十万円レベルです。スクラッチだと何百万円もするのが数十万円でできます。
スマートフォンを全員が持っているのであれば、スマートフォンを使って自社の機械で何ができるかという提案は簡単で面白いと思います。そういったマインドであれば来場者が面白くなると思います。
宮本 アイデアとして出してくれるとどこかのメーカーがそれをやってくれるはずです。
岡 私が関心を持っているのは、いかに決まった仕事を無人で流すかだけではなく、先進技術も安くなりました。夜間に工場で社員がつまずいて怪我をしたことがありました。電気が消えていたからであり、安価な人感センサー付きの照明に取り替えました。数千円の技術で安全になります。便利なものを使うことはものづくくりには必要だと思っています。
宮本 プロが使う「これでなくては」というものと、サブスクで安価なのに便利に使えるもの、どちらが必要かはそれぞれ違いますが、より便利なものを使っていくことは大切なことです。
岡 失敗すれば代えれば良いという感じです。
作道 サブスクはやめたら終わりです。そういう意味では取り組みやすいと思います。

 

「JP2022・印刷DX展」
DXに向かう印刷会社が情報収集できる機会に

 

宮本 そういったものを組み合わせて、スモールスタートで良いので、実証実験というと大きな言葉ですが、試しにこういう流れでこういう仕組みをお客様に提案してみる。あるいは、こういう要望があるが、このツールを組み合わせたらすぐにできるのではないか。そういうことを試してみる。そんなやり方で入っていくのもひとつという理解でよろしいですか。
岡 まさにその通りです。
作道 小規模企業ではIT人材が置けないため、業者に丸投げしてどんどんランニングコストがかかっていく。これまではそういう流れになっていたのが、クラウドに代わることによってリスクヘッジがしやすくなっています。
クラウドサービスはできることが決まっているため、ある程度の制約はありますが、そこは我慢して使うしかなくて自社で人材を抱えられるのであれば、自社でやれば良いと思います。
宮本 それもひとつの標準化だと思います。選択肢はお客様にあって良いと思います。例えば強固なセキュリティが必要ですが、それにはこれだけの費用がかかりますと。提案するのも選択肢を与えるという意味ではひとつの営業の手法かと思います。
そういう使われ方でいうと多様な選択肢があるわけです。印刷会社もメーカーや商社が持ってくる情報だけではなくて、もっと広く知った方が良いと思います。
岡 作道さんの会社のMISは、ファイルメーカーで、自社で作っておられます。ファイルメーカーはかなり前からあるパッケージソフトです。それで作道印刷さんのシステムは動いているわけですからすごいです。
宮本 そういう展示会にしていくのもひとつで、メーカーそれぞれにもっとオープンにしてくれということですね。
作道 長い目で見ていただきたい。短期利益を追い求めるとひずみができてしまうので、長いお付き合いをして、そこで利益を出していこうというスタンスであれば、提案内容も変わってくるような気がします。
宮本 印刷会社側の意見として、メーカーがこれをどういう形で製品やソリューションに展開されるのかは、各メーカーの方針になってくると思いますが。
岡 つながらないアナログの機械はどうなのか。デジタル化はすなわち自動で動いたり、無人で動いたりしたら無価値になっていくわけです。何が価値を持ち出すかというと、人が動かさなければいけないプロセスや、つながることとは関係のない設備が相対的に価値を持ってくると思います。
デジタル最有力という感じですが、実はそうではなくて、バランスを取るためにはリアル・アナログの機械を見たかったり、搬送装置であったり、楽に重いものを運ぶといった気づきを得る。工場を強くしていくためにどちらも大事だと思います。
作道 そういう意味では、いろんなモジュールがあって、それを組み合わせていくという流れが最も自然ではないかと思います。1社ずつ、少しずつ違わないと差別化できなくなり、無価値になっていくのは当たり前の話です。
モジュールの組み合わせを変えることによって競合との違いを出していく。完全にレディーメードというわけではなく、セミオーダーみたいな感じで機械を作り上げていく。ソフトもそうですが、そんな感じの方が良いという気がします。
宮本 今回はディスカッション形式での話となりましたが、印刷会社が抱えている課題やDXに向かおうとした時のアプローチやステップ、JP展に出展されるメーカーの製品やソリューションをどのように組み込んでいくか。それが印刷会社にとってのひとつの目的だと思います。
もちろん、印刷会社側が目的意識と課題を持ってJP展に来場してくれることが大前提になります。細かいニーズや出展内容、出展されるメーカー間でのつながりも含めて数カ月の時間があるので主催者側で意見として出せるものもあると思います。
各社のご支援・ご協力も得ながら、「印刷DX展」の看板をつけたことによってこのように変わりましたということを来場者に見ていただける場にしていきたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。

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