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ガリ版が大阪・関西万博で再注目 体験型展示に行列絶えず

2025年6月25日、来場者数13万5千人を数えたほど多くの人で賑わったこの日、大阪・関西万博「関西パビリオン」にて開催された「ガリ版体験」が大きな注目を集めた。

 

滋賀県東近江市と蒲生町づくり協議会、そしてガリ版伝承館が連携して出展したこの展示は、明治時代に誕生した謄写版=ガリ版文化を、現代の来場者に直接「手で感じてもらう」試みで、世代を超えた交流の場を創出。午前中から行列が絶えず、整理券が無くなるほどの盛況ぶりを見せた。

 

会場では、実際にガリ版で使用するインクを使い、参加者自身がハガキに刷る多色印刷体験が行われた。1色刷りの簡易版も用意し、できるだけ多くの来場者にガリ版に触れてもらえるよう工夫を凝らした。
若者から高齢者まで、さらには通訳付きで訪れる外国人までが列を作り、昔ながらの印刷体験に目を輝かせていた。

 

運営に携わったガリ版アーティスト・水口奈津子氏は、ガリ版の魅力を「単なる印刷物としてではなく、アートや懐かしさ、思い出として人の心に残る文化」と語る。同氏は、地域で脈々と受け継がれてきたガリ版文化の灯を絶やさぬよう活動を続けてきた一人だ。

 

「万博は見るだけで終わる展示が多い中、来場者は『体験ができる』とここに立ち寄ってくださる。ガリ版体験を通じて楽しんでもらい、記憶として持ち帰ってもらえるのが嬉しい」と水口氏。

「普段は孤独な作業で、誰にも見られずに黙々と作っている。でもこうしてたくさんの人に見てもらえて、実際に体験してもらえることで存在意義が確かになる気がする」と笑顔を見せた。

 

かつて祖父がガリ版を扱っていたという来場者(明石市在住)が「父がこのブースを楽しみにしていた」と語る場面もあり、世代を超えてつながる文化の力を感じさせた。

 

「ガリ版発祥の地」である蒲生地区。明治時代、東近江市出身の堀井新治郎がアメリカ・シカゴ万博でトーマス・エジソンのミメオグラフ(謄写印刷機)に出会い、帰国後に研究開発を重ね、簡易印刷器・ガリ版として国産化。その後、教育現場や地域の広報活動などに広く使われ、日本各地に広まった。

その堀井氏とエジソンの間に交流があったことを示す手紙も、近年発見され話題になった。

 

さらに、今回の出展は「ガリ版が132年ぶりに万博に登場」とのエピソードも来場者の関心を集めた。
展示は東近江市の出展日限定であったが、限られた日数の中で多くの人にガリ版の魅力を知ってもらうことができた。

 

水口氏は「若い人が『やってみたい』『面白そう』と体験していく様子を見ていると、文化の継承に確かな手応えを感じた」と語り、「この灯を絶やさず、次の世代へ手渡していきたい」と決意を新たにしていた。

 

かつて一人の発明家によって生まれ、やがて日本に根付いたガリ版文化。時代とともに姿を消しつつあったガリ版だが、こうして今も「現役」の技術として生き続けている。

 

その火を絶やさぬようにと動く人々の努力が、大阪・関西万博の大舞台で多くの人々の心に新たな灯を灯した。

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